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中日新聞 シリーズ検証・自民党改憲草案 ― その先に見えるもの

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【重要なお知らせ】
 閲覧いただき、ありがとうございます。
せっかくお越し下さりましたが
Yahoo!ジオシティーズは、2019年3月末にてサービスを終了します。
大変に恐縮ではございますが、
下記の引っ越し先へ、「お気に入り」や「URL」等の変更を
お願いできましたら幸いでございます。
        管理人
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【 このページを見やすくするためのヒント 】
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【はじめに】
 中日新聞社と東京新聞に対して、自民党が掲げる憲法草案の中身を載せてくれと要請してきました。
ようやく載せることに決めたようです。
東京本社東京新聞も含め、中日グループ発行部数340万弱。
普段細かく読まない読者でも、A面トップに連載されているので、いずれ気付くやもしれず、
その影響力は規模でみれば全国紙にも劣らないレベルといえます。
(東京新聞は@面?、見出しとレイアウトについては、それぞれ独自に工夫を凝らしていることは、いつも通り)

 ただ物足りないと思うのは、
せっかくの条文について、肝腎のポイントには触れずに、違いを際立たせる手法をとってないことです。
それをみると、権力を握っている自民党に対して、気配りをしている印象を受けます。
もっと踏み込むこともできるでしょう。
が、 嫌がらせの税務調査や痴漢逮捕などを仕掛けてくるのが常なので、
連載を続ける為にはこのくらいで抑えておくことは仕方のないことかもしれません。
 ということで、憲法に縁の薄かった多くの読者に「伝えたいことが伝わるだろうか」とちょっと気懸かりです。
それでも、テレビ・新聞他紙が無視を貫き、御用機関に安住を求めているものたちとは一線を画し、
毅然と一歩を踏み出してくれたことは高く評価します。
シリーズが始まり、これからどの条文まで突っ込めるのか、いかに切り込むのか、九十七条基本的人権までいけるのか、
注目されます。
順次、ご紹介していきます。

これでは「よぉわからん」というお方は、自民党憲法正草案対照表 2012版 とか、
 ■多くの人が自民党の本質をわかってない 〜憲法草案を載せてくれ--> こちら(ブログ)

をどうぞ。
 なにがなんでも続けて欲しかったが
このシリーズが終わってしまいました。
草案の肝の数々には触れられず、中途半端に・・・。
覚悟を決めて始めただろうと推察していますが、
 「その後、なにかの動きがでてきた?」
 「それには抗えず、どうしても続けられなかった?」
・・・
ホントのところはわかりません。

当初、懸念していたように『基本的人権』までは、行くことができませんでした。
解説の中で「基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにした」と認めている。・・・
とさらっと指摘して呉れてはいるのですが、--> ココ
それが「第十章 最高法規」がまるっと削除された背景になっているだろうことを、読者の多くが気付いたかどうか。
こんな回りくどい説明をしなくとも、
具体的に、条文を掲げて解説さえすればシンプルに問題点が浮かび上がり、誰にでも理解できたことだったのに・・・
返す返すも、残念です。

で、電凸しました。
 ■ 「検証・自民党改憲草案」終わった 〜が、これからもやる、中日新聞 --> こちら
          管理人
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<--自民党憲法正草案対照表 2012版 へ戻る

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  6.憲法100、96条 立憲主義大きく後退 (=おわリ)2013.6.11
    ※ 6月10日(月)休刊日につき、お休みです 2013.6.10
  5.憲法前文、3条 国旗国歌に尊重義務 2013.6.9
  4.憲法72条、92条、93条 地方より中央に権力 2013.6.8
  3.憲法24条、99条、102条 家族助け合い義務化 2013.6.7
  2.憲法13条、19条、21条 個人より国家優先 2013.6.6
  1.憲法9条 国防軍が海外展開 2013.6.5


6.立憲主義大きく後退

中日新聞2013年6月11日 クリック ↓ で原寸大
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立憲主義大きく後退

検証・自民党改憲草案6
−その先に見えるもの

  現行憲法の九六条では、改憲には、衆参両院で三分の二以上の賛成を得て国民に提案し、国民投票で過半数の賛成を得なければできないと規定されている。通常の法律が衆参両院の過半数で成立、改正できるのに比べて厳しい条件が課されているが、自民党の改憲草案はこのハードルを下げる。
  そもそも、憲法とは国を統治する最高法規で、どんな法律や政府の決定よりも優先される。憲法は国民の権利や自由を保障し、政府や国会議員などが勝手に権力を乱用しないように歯止めをかける役割を担っている。こうした考え方を立憲主義といい、現行憲法もこれに基づいている。
  例えば、国会や政府は憲法に抵触するような法律をつくったり、政策を行うことはできない。もし「合憲」と判断して法律などをつくっても、裁判所が違憲判決を下せば、法律は改正し、施策は見直さなければならない。
  自民党案は改憲を国民に提案できる要件について、現行の衆参両院の三分の二以上の賛成から過半数に緩和した。そうなれば、過半数を占める与党が自由に改憲を国民に発議できるようになる。
  国会は衆院選の「一票の格差」で「違憲」判決を受けながら、格差是正を放置し続けてきたが、こうしたケースで憲法自体を変えてしまおうということも可能になる。憲法が権力を縛るという立憲主義は大きく後退する。
  九六条改憲には、野党や護憲派だけでなく、自民党内の一部や連立政権を組む公明党、改憲派からも異論が相次ぐ。改憲論者の小林節慶応大教授は「(安倍普三首相は)『憲法を国民に取り戻す』と言うが、権力者が国民を利用しようとしている。これは改正でなく憲法の破壊だ」と批判している。
  世論も他の条文以上に九六条改憲には厳しい。本紙が一、二両日に実施した世論調査でも55%が「過半数への緩和」に反対する。
  九六条改憲に熱心な安倍首相も最近は強気な発言を控えているが、十日発売の月刊誌「Voice」のインタビューで「私はいま声を大にして九六条改正を訴えている」と強調。九六条改憲の旗を降ろそうとはしない。
    (岩田仲弘)
      =おわリ
護憲派・伊藤真弁護士の懸念
 改憲繰り返される

  政権交代ごとに改憲が一般法のように繰り返され、憲法が憲法でなくなってしまうのではないか。例えば、自民党が九条改憲を半ば強行採決で発議したとする。政権与党によりつくり出された改憲の政治的ムードの中で、国民投票でも過半数を獲得した。だが、直後の衆参両院の選挙で敗れ、政権交代により現行憲法の九条が復活。さらに政権が代わり、また改憲となるかもしれない。その場合、国民生活lは混乱し日本は国際的な信用を失う。
96条改正議連会長 古屋圭司氏の説明
 ハードル低くない

  最終的に国民投票があることを踏まえれば、発議要件を衆参両院の三分の二以上の賛成から過半数に緩和しても、国会が次々に改憲を発議することは現実的にはあり得ない。発議は、各党が議論して「ここを変えよう」というときだ。強行したら最終的に国民投票で否決されるのは明らかで、間違いなく抑制的になる。
過半数も決して低いハードルではない。
主権者の国民が、改憲の是非に意思表示できる機会を増やすことが大切だ。

  自民党改憲草案と現行憲法の比較
自民党草案 現行憲法
第一〇〇条 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。 2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、直ちに憲法改正を公布する。 第九六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三会の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。


5.国旗国歌に尊重義務

中日新聞2013年6月9日 クリックで原寸大
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 国旗国歌に尊重義務

 検証・自民党 改憲草案 5
  − その先に見えるもの

前文は、憲法全体の基本的な考え方を示す「顔」だ。自民党改憲草案の前文からは「国民」よりも「国家」を優先し、国民に愛国心を求める考え方が見てとれる。
  現行憲法、自民党案とも、前文の最初の段落で「国民主権」を宣言しているが、現行憲法が「日本国民は」の書き出しで始まるのに対して、自民党案は「日本国は」で始まるところに、国家優先の姿勢が表れている。
  平和主義を掲げる二番目の段落でも、現行憲法は「国民」が主語なのに、自民党案は「国」で始まる。
  現行憲法は「日本国民は平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と記している。これに対し、自民党は国民向けの説明用冊子で「ユートピア的発想による自衛権の放棄だ」と平和主義の理念を否定。代わりに「我が国は平和主義の下、世界の平和と繁栄に貢献する」と明記し、自衛隊の海外派兵も含めた国際貢献の必要性を強調している。
  現行憲法の前文にある平和的生存権(戦争だけでなく、生活を脅かす脅威から免れて穏やかに暮らす権利)も削除した。脱原発派が原発は「違憲」と主張する根拠にしている条文だ。
  自民党案では前文の第三段落で、ようやく「日本国民」が主語になるが、そこに記されているのは「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守る」。愛国心という言葉こそ使っていないが、国民に愛国心を持つよう求めている。
  愛国心を具体化する手段として、自民党案は第三条に「日の丸・君が代」の尊重義務規定を新設。日の丸を国旗、君が代を国歌と明記し「日本国民は尊重しなければならない」とした。
多くの国民は日の丸・君が代に違和感を持っていないだろうが、戦前の軍国主義を想起する人もいる。
  教育現場では、教職員が「思想・信条の自由」を理由に、入学式や卒業式で国歌斉唱の際に校長の職務命令に反して起立しなかったり、ピアノ伴奏を拒んで処分を受けるケースが相次いでいる。東京都では、石原慎太郎・日本維新の会共同代表が都知事だった二〇〇三年、国旗掲揚と国歌斉唱を教職員に義務づける通達を出し、処分者が多い。
  処分を受けた教職員が起こした裁判で「重い処分には慎重な考慮が必要」と、一部処分を取り消す判決も出ているが、憲法に尊重義務が明記されれば、処分への異議は一層認められなくなることが懸念される。
    (上野実輝彦)
護憲派・伊藤真弁護士の懸念
 自宅でも祝日掲揚

  祝日は自宅に日の丸を掲げることが義務付けられる。卒業式や入学式など学校行事で君が代斉唱は必須になり、教員は自ら起立し、歌うだけでなく、全ての児童、生徒が必ず歌うように指導することが求められるだろう。従わなかった児童、生徒は処分を受けるかもしれない。一人一人の権利よりも国力の成長を重視し、愛国教育も奨励される。
日本の伝統、歴史観だけに偏った教科書で学ぶことが押しつけられるのではないか。
起草委員・平沢勝栄氏の説明
  罰則規定ある国も

  過去の過ちまで美化するつもりはないが、自分の図の伝統や文化、生まれた家族に誇りを持ち、教育することのどこがおかしいというのか。国旗、国歌の尊重も当たり前。外国には国歌斉唱の時に起立しないと罰せられる国だってある。尊重できないという人がいるなら、憲法に明記しなければならない。国民の権利を守ることができるのも、国があってのことだ。国が人権を守り、その国を一人一人の国民がつくる。それがあるべき姿だ。
自民党改憲草案と現行憲法の比較
自民党草案 現行憲法
(前文)日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち」国民統合の象徴である天皇を載く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
  我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災書を乗り準えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
  日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会会体が互いに助け合って国家を形成する。
      (中略)
  日本国民は、良き電灯と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。
(前文) 日本国民は、…政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宜言し、この憲法を確定する。…われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。  日本国民は、恒久の平和を念願し…平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。…われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうらに生存する権利を有することを確認する。
       (中略)
  日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第三条 国旗は日章旗とし、国家は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない。
※現行憲法に国旗・国歌の条文はなし


4.地方より中央に権力

中日新聞2013年6月8日  クリックで原寸大
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 地方より中央に権力

 検証・自民党改憲草案4
  −その先に見えるもの

  自民党の改憲草案は国と地方の関係も変えてしまう。現行憲法で、地方自治体の仕事は「地方自治の本旨」に基づくとされている。
難解な言葉で、憲法に定義は明記されていないが、「地方の運営は住民の手によって行われる」「国から独立して自主的に運営される」という二つの意味がある。明治憲法に地方自治の規定がなかったことから、国への権力集中に歯止めをかけ、対等な行政運営を目指そうという考え方だ。
  自民党案は、この「地方自治の本旨」を「地方自治は、住民に身近な行政を自主的、自立的、かつ総合的に実施すること」と具体的に定義。地方自治に関する条文を増やし、「国と地方の役割分担」を明確に義務づけた。
  国と地方の役割分担は一見すると、「住民に身近な行政」は地方に任せるとも読めるが、専門家の間からは「国と対等な行政運営」が弱まるという指摘がある。政府が専権事項とする外交・安全保障、通商分野の政策に、自治体や地方議会が関与しにくくなるのではないかという懸念だ。
  例えば、地方議会が米軍基地再編の反対決議をすることが「違憲」とされ、制限されかねない。地方から国の政策に異議を上げにくくなる可能性がある。
  住民の負担義務や自治体の自主財源の確保、財政健全化の原則も盛り込まれた。
  政府が住民に身近な行政は地方の役割だとして、生活保護など、政府が国民に保障する最低限度の生括水準「ナショナルミニマム」の確保策を地方に任せることも考えられる。政府が「自主財源の確保」「財政健全化の原則」を口実に、必要な財源を出し渋れば、豊かな都市部と財政力の弱い田舎との間で「最低限度の生活」に格差が生まれるかもしれない。
  自民党案には首相の権限強化も盛り込まれた。首相が閣議に諮らなくても一人で決められる「専権事項」として
@衆院の解散権
A行政各部の指揮監督権
B国防軍の最高指揮権
−を新たに設けた。強いリーダーの下での強固な統治体制を描く。首相を中心とした中央政府に権力を集中させようとする意図が色濃く見られる。(岩崎健太朗)
 
護憲派・伊藤真弁護士の懸念
 自治体の声弱体化も

在日米軍基地周辺の市田村議会が、米軍の新型輸送機の配備に反対する決議を採択しようとしても、政府からストップがかかる可能性がある。環太平洋連携協定(TPP)への参加を決める国会承認を控え、農業が盛んな地方自治体の首長らが省庁に反対を申し入れようとしても門前払いに。
自治体独自で海外企業を誘致しようとしたら、通商政策は国の専権事項として横やりが入るかもしれない。
起草委事務局長磋崎陽輔氏の説明
 国の押し付け制限

  国と地方の役割分担といっても、一方的に「地方は国のことに口を出すな」ということではない。「国は地方になんでも押しつけるな」という意味もある。地方自治は「自主的、自立的かつ総合的に行政を実施する」とうたっているが、最低限度の生活水準(ナショナルミニマム)の維持が弱まることには全く結びつかない。自主財源の原則は地方が求めていることを明記しただけだ。都市部と地方の偏りを是正するための規定も設けている。
 ナショナルミニマム
政府が国民に対して保障する最低限の生活水準のこと。日本の場合は、生活保護などの社会保障制度に加え、日常生活に不可欠な最低限の生活環境施設の整備の意味にも使われる。憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」が根拠になっている。
自民党改憲草案と現行憲法の比較

自民党草案 現行憲法
第七二条 内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総会調整を行う。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して、議案を国会に提出し、並びに一般国務及び外交関係について国会に報合する。
3 内閣総理大陸は、最高指揮官として、国防軍を統括する。
第七二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
第九二条 地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負租を公平に分担する義務を負う。
第九二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。
第九三条 2 地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。
3 国及び地方自治体は、法律の定める役割各組を踏まえ、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない。
 


3.家族助け合い義務化

中日新聞2013年6月7日  クリックで原寸大
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 家族助け合い義務化

 検証・自民党改憲草案 3
  − その先に見えるもの

 自民党の改憲案は、夫婦平等などを定めた憲法二四条の冒頭に、新たに家族の規定を設けた。家族を「社会の基礎単位」と位置付け「互いに助け合わなければならない」と明記している。
  自民党は国民向けの説明用冊子で「昨今、家族の絆が薄くなってきていることに鑑みた」と新設の理由を説明。一見、もっともなようだが、もともと二四条は戦前、個人より「家」が尊重され、押し込められていた女性の地位向上を願ってつくられた経緯がある。
家族規定の新設は、時代によって変化する多様な家族の形に対応するのでなく、逆に昔ながらの家族像への回帰を読み取る向きもある。
  家族の助け合い義務に批判が相次ぐ理由には、国が一定の価値観を押しつけるだけではなく、家族による「自助」を求め、増大する社会保障費を抑制する狙いがあるのではないかという懸念がある。
説明用冊子でも「党内議論では、親子の扶養義務も明文規定を置くべきだ、との意見があった」と認めている。
  例えば、介護保険では、今以上に家族で年老いた親の面倒を見ることを求められ、介護サービスを受けられる基準が厳しくなることも考えられる。また、生活保護を申請した場合、別居していても子どもがいれば「家族に扶養義務がある」と、支給を拒否される根拠になる可能性がある。
  自民党案には他にも「日の丸・君が代尊重義務」「領土・資源確保協力義務」「緊急事態指示服従義務」など、義務規定が多く盛り込まれた。現行憲法は勤労、納税、子どもに教育を受けさせるという三つの義務を国民に課しているが、伊藤真弁護士によると、自民党案にはさらに十の義務規定が追加されているという。
  自民党内には「憲法に義務規定が少ないことが、戦後の権利優先社会を形成するひとつの要因になった」「現行憲法は個人主義に偏っている」などの意見が強く、多くの義務規定につながった。
  国民の憲法尊重擁護義務も定めている。憲法は本来、国民の自由と権利を保障するために権力を律する立憲主義のルールで、国民を縛る規範ではない。
  「憲法は権力者を縛る側面もあるが、自由民主主義、基本的な人権が定着した今日、国の理想や形を示すものでもある」。安倍普三首相の国会答弁からも、憲法を国家の目指す姿を示し、それに向けた国民の義務を明記するものに転換しようという姿勢が見える。
    (岩崎健太朗)
自民党改憲草案と現行憲法の比較
自民党草案 現行憲法
第二四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け会わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
第二四条 婚姻は、両性の会意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
第九九条 3 緊急事態の宜言が発せられた場会には、何人も…国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、…基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。 ※現行憲法に緊急事態の条文はなし
第一〇二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。
第九九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
護憲派・伊藤真弁護士の懸念
  社会保障厳しい制限

  介護保険や生活保護などの社会保障制度を「家族で支えよう」というスローガンのもと、厳しく制限し、困っている人に行き渡らないようになるのではないか。一方で、サザエさん一家のような三世代同居家族をモデル家族として、税制上、優遇することも考えられる。独身、事実婚、共働き、シングルマザー、シングルファーザーなど、多様化している家族の姿が否定されはしないだろうか。
党憲法改正推進本部長代行 船田元氏の説明
  自助の心広めたい

  家族の規定といっても、事実婚なども含めていろいろな家族の形があるということだ。三世代同居も一つの理想だが、どの家庭もそれを目指せる状況にはない。義務ではなく、人の絆を大切にしようという当然の心構えを示すもので、福祉を抑制する意図などない。
  ただ、草案全体を通じ、もう少し自助の心を広めようという思いがあるのは確か。
権利の主張が強い社会になったので、そこを少し戻そうじゃないかという願いも込めている。

自民党憲法改正推進本部
2009年12月、改憲草案を作成するために設置された。本部長は保利耕輔氏で、最高顧問に安倍晋三民ら4人の首相経験者が就任するなど、メンバーはベテラン中心。11年12月には中谷元氏を委員長にし、党幹部と中堅議員約30人で起草委員会が発足。
推進本部、起草委を中心に、合わせて50回以上の会議を経て改憲草案が決まった。


2.個人より国家優先

中日新聞2013年6月6日  クリックで原寸大
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個人より国家優先
検証・自民党改憲草案 2

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 個人より国家優先

 検証・自民党改憲草案 2
 − その先に見えるもの

今の憲法では、法の下の平等や思想・良心の自由など人権が広く認められている。そのよりどころになっているのが「幸福追求権」を定めた一三条だ。
そこには、国民の自由や権利が制約されるのは「公共の福祉」に反する場合に限ると記されている。ある人が自らの人権を主張することにより、他人に迷惑をかけない限り、個人の人権は原則として制限されないという意味だ。
例えば、自分の家だからといって、四六時中、窓を開けて大音量で音楽を聴いたり、周りが平屋なのに十階建てのビルを勝手に建てたりしたら、近所の人の権利は侵害される。
こうした場合は「公共の福祉」に反するとして、一定の制約を受けることもある。
自民党の改憲草案は、この「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と置き換えた。
自民党は国民向けの説明用冊子で、言葉を変えた理由を「(公共の福祉という言葉の)意味が分かりにくい」と説明。一方で


「基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにした」と認めている。
「公益」「公の秩序」は国家、つまり政府が定める政策やルールと解釈できる。表現の変更により、政府の方針が人権より優先されることもあり得ることになる。
自民党案は二一条で表現の自由に関して「公益及び公の秩序を害する」ことを目的とした活動は認められないと明示する。日本も批准する多国間条約「国際人権規約」が「公の秩序の保護」を理由に表現の自由に制限を課していることを参考にしているが、憲法に明記されれば新たな規制を生み出すことも考えられる。
特に、国家が外交・安全保障上の危機にさらされている場合は、政府が「公の秩序」の維持を理由に、集会や結社、言論などの表現活動を違憲とみなし、規制の対象にすることが懸念される。
個人情報についても「不当に取得し、保有し、利用してはならない」という新たな条文を加えた。守秘義務のある公務員から役所の不祥事などを取材する際、支障が出る恐れもある。
(上野実輝彦)

自民党改憲草案と現行憲法の比較
自民党草案 現行憲法
第一三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追及に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。 第一三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追及に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第一九条 思想及び良心の自由は、保障する。
第一九条の二 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。
第一九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を客することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
第二一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
護憲派・伊藤真弁護士の懸念
  言動の自由に危機

毎週金曜夕方に首相官邸前で行われている脱原発デモを警察官が阻止する可能性がある。政府が停止中の原発を再稼働し、原発新設を推進する方針を決めた場合、それに反対する行動は「公の秩序を害する」とみなされる恐れがあるためだ。もし朝鮮半島で戦争が起きたら、午前零時以降のカラオケ店の営業や路上での弾き語りが取り締まりの対象になるかもしれない。インターネットでの意見発信も、常に政府から監視される可能性がある。
起草委員・片山さつき氏の説明
 「反政府」規制しない

  「公益及び公の秩序」と表現しているのは「公共の福祉」という言葉が抽象的で、人権相互の調整に限って制約しうると読めるからだ。これは古い解釈で、必要かつ合理的な範囲で一定の自由の制限を認めてきた最高裁判決と合わなくなってきている。
公の秩序に反国家的行動を取り締まる意図はなく、政府方針と異なるという理由でデモを規制するなんてありえない。抵抗感があるなら「平穏な社会生活」と言い換えてもよいくらいだ。

1.国防軍が海外展開


中日新聞2013年6月5日  クリックで原寸大
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 国防軍が海外展開

憲法の将来を決める岐路に立たされている。夏の参院選で改憲勢力が大きく躍進すれば、最大与党である自民党の草案を軸にした改憲が現実味を帯びてくる。そうなったら日本は、どんな国になるのか−。護憲派弁護士の伊藤真さんが懸念する社会の姿を紹介しながら、自民党改憲草案を検証する。

 検証・自民党 改憲草案 1
  − その先に見えるもの

日本の平和主義を象徴する憲法九条は「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を明記。そのまま読めば自衛隊は「違憲」になる。政府は海外で武力を行使することは認められないが、自国への攻撃を防ぐために戦うことはできると解釈。自衛隊が持つのは「戦力」でなく「自衛力」と説明し、合憲と位置づけてきた。
自民党が改憲草案で「国防軍の保持」にこだわるのは、こうした苦しい説明を解消する狙いがある。
矛盾を抱えながらも、九条は日本が専守防衛に徹し海外に侵攻するような武器を持つことを抑制してきた。
戦闘に巻き込まれる恐れのある海外の戦地に自衛隊を派遣しない歯止めになっている。
政府はそれにもかかわらず、一九九一年にペルシャ湾で機雷を除去するため海上自衛隊の掃海艇を派遣したのを皮切りに、海外活動をなし崩し的に拡大。
二〇〇四年には、戦闘の続くイラクに陸上自衛隊の部隊を送った。
派遣先のサマワを「非戦闘地域」と位置付け、押し切った。憲法の歯止めは揺らいでいる。
自民党案は、曲がりなりにも残ってきた歯止めを完全に外してしまう。九条から「戦力の不保持」と「交戦権の否認」は削除。「戦争の放棄」は残すが、同盟国への攻撃に日本が反撃することも含め「自衛権の発動」を妨げないという条文を加えた。
自民党案は、時の政権が「自衛権の発動」と判断すれば、戦争もできることになる。戦争の大義が施政者に都合よく解釈されてきたことは、歴史が証明している。日本維新の会の石原慎太郎共同代表は今でも、先の大戦を「自衛のためだった」と主張している。
国防軍は「国際的に協調して行われる活動」にも参加できると規定。現在は禁じられている多国籍軍への戦闘参加も可能になる。
そうなれば、攻撃された国やテロ組織から狙われる可能性は確かに高まる。国防や治安維持に費用がかさみ、国民にしわ寄せが及ぶことも否定はできない。
(生島章弘)

自民党改憲草案と現行憲法の比較
自民党草案 現行憲法
第二章 安全保障
第九条(平和主義) 日本国民は…国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は…国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手放としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保祷しない。
国の交戦権は、これを認めない。

第九条の二(国防軍) 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
3 国防軍は…法律の定めるところにより、国際社会の平和と宴会を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
※現行憲法に第九条の二はなし
自民党改憲章案
戦後の日本が主権を回復したサンフランシスコ講和条約発効から60周年となる2012年4月28日に発表された。自民党は05年にも「新憲法草案」を発表したが、10年に国民投票法が施行され、衆参両院の憲法審査会での議論が本格化するのに備え、内容を全面的に改め、保守色の強い内容となった。

護憲派・伊藤真弁護士の懸念
 過激派が日本狙う

観光客や家族連れでにぎわう東京ディズニーランドのいたるところで監視カメラの目が光っているような社会になる。米国を中心とする多国籍軍が派遣された場合、日本も参戦できるようになり、そうなれば海外の過激派組織が日本を標的に加えるためだ。日本の国防関連予算は急増し、その分、医療や年金などの社会保障費が削られる可能性もある。財源を確保するため、消費税が天井知らずに上がるかもしれない。
いとう・まこと 1958年、東京都生まれ。法律家の育成を目指す「伊藤塾」塾長。日本弁護士連合会・憲法委員会副委員長。
起草委員長・中谷元氏の説明
 解釈変更不信呼ぶ

在日米軍がいるからテロの標的になるという人がいるが、果たしてそうか。それと同じで国防軍を持ったことで、本当にテロの標的になるのか。今でも警察を中心にテロの被害が起こらないよう取り組んでいる。状況が変わるものではない。
国防軍の海外派遣が誤った判断なら、その後の選挙で政権交代させることもできる。憲法解釈の変更を重ねて自衛隊の任務をずるずる拡大した場合、かえって国内外の憲法への不信感を増長させる。
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